交通事故報道の裏側で

昨日は、JR宝塚線の脱線事故の日でした。事故発生は13年前、私が言語聴覚士になって3年目のことでした。当時は、高齢者が多い療養病院に勤務しており、対象の患者さんは施設や在宅から入院された嚥下障害の方がほとんど。時々、失語症の患者さんはいましたが、高次脳機能障害については専門学校で習っただけで、実際にあの職場に対象者がいたのかどうかもわかりません。私だけでなく、医師も看護師も、リハビリのスタッフも、ほとんど知らなかったと思います。
なので、この事故の報道を見たときに「あー大きな事故が発生したんだ」と驚きはしたものの、生存者の中に、多くの高次脳機能障害者がいるであろうことは想像だにしなかったのです。
見えない障害はPTSDだけでない
見えない障害はPTSD(心的外傷後ストレス障害)だけではありません。大きな事故の生存者の中には、高次脳機能障害者が存在します。
私たち、Reジョブ大阪では高次脳機能障害についての本を出版します。高次脳機能障害は、脳損傷が原因で引き起こされるものです。これまで多くの人がこの障害に苦しんできたにもかかわらず、見た目でわからない、治療する薬がないために、医療の現場でさえ見落とされてきた障害です。現在どのくらいの患者数がいるかということさえ、はっきりとわかりません。年間発生数が、東京都で3,000人、大阪府で1,500人程度という調査がありますが、推計です。こうした人の中には、交通事故などの外傷によって、高次脳機能障害となっている人も少なくありません。
今の私は、交通事故の報道を見ると、その後遺症としての高次脳機能障害のことが気になります。重症度によらずです。高次脳機能障害者の中には、手足に怪我がない人も少なくありません。人間の脳は、硬い硬い骨の中に収まっている豆腐みたいなもの。事故などにより急激に頭を揺さぶられると、脳細胞やそこについている軸索という長い繊維がねじれて剪断されてしまうのです。これらはCTやMRIでは分かりにくい場合も少なくありません。また非常に微小な損傷でも、傷付いた場所によっては影響がでることも最近の研究で分かってきています。
意識障害が続いた時間がカギ
事故後に意識障害がどの程度続いたのか、これが高次脳機能障害が残存するかどうかの一つの鍵となります。事故後、意識障害が数日続いた場合、身体の麻ひがなくても、一見、普通に喋っているように見えても、この障害を念頭に置いて「評価」する必要があります。残念ながら、医療機関でいまだに見落とされることがありますので、どうか、みなさんも知っておいてください。もし、身内の方が事故に遭って意識障害が続いた場合、「検査をしてください」と申し出てもいいし、各都道府県に配置されている相談窓口に問い合わせてみるのもいいと思います。
最後になりましたが、脱線事故でお亡くなりになった方々のご冥福を祈ります。また、いまだに、後遺症と向かい合っている当事者、家族さんに支援の手が差し伸べられますように。そして、少しでも、その方々の社会復帰がスムーズに進むことを願います。
Reジョブ大阪 西村紀子
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