失語症のお話(2)
前回、失語症とは脳内で積みあげてきた言語のネットワークが崩壊した状態だとお伝えしました。ここでは「言語」というのがポイントです。患者さんは、そのものが何かはわかっているのです。ただ「言語」つまり「言葉」が分からないだけなのです。

コップを見ても「コップ」と「言葉」で言えない、また「コップ」と「言葉」で言われても何を指しているかわからないというのが、失語症の特徴です。けれども、患者さんは、目の前にある「コップ」という物体が「何をするものなのか」ということはわかっています。だから水が入ったコップを「どうぞ」と自然に手渡すと、普通に飲みます。その物体が「コップ」と発音するものであること、「コップ」という音で表されていることがわからないだけなのです。それは目で見る「文字」でも同じです。
さて、時々「鉛筆で書いてください」と鉛筆を渡すと、手の中で持て余したり、うまくにぎれなかったりする人がいます。失語症だけであれば鉛筆は何をするもので、どうやって使用するかはわかるはずです。
鉛筆という物体が何であるかわからなくなるのは「失認」、どうやって使用するかがわからなくなるのが「失行」です。「失語」「失認」「失行」は合併することも多いですが、症状は別のものです。
そして「認知症」とも違います。認知症は、この「失語」「失認」「失行」だけでなく、「記憶」「注意力」「判断能力」などの認知機能全般が、不可逆的(進行性)に低下していく症状です。
なぜ、こうしたことをお話しするのかと言いますと、それは、失語症の人に間違えた方法で関わっている人が多いからです。病院内でさえ「これは歯ブラシですよ!こうして使ってみて!」と何度も言われる人がいます。また、判断能力が低下していると思われて、自己決定をさせてくれない人もいます。中にはまるで赤ちゃんに接するように患者さんに接する人もいます。状況が分かっている失語症の人にしてみたら、この状況は大変辛いことです。
また、失語症の人は、言葉の理解や表出が難しいため、認知症の人と間違えらることも少なくありません。
家族さんの中には「知能は大丈夫ですか?」と心配される人も多いです。確かに、知的機能の低下を合併していることもあります。しかし、失語症だけであれば、たいていは今の状況から相手が何を伝えようとしているのかを見て判断できます。また、相手のジェスチャーでもなんとなくわかるし、相手の表情などを読み取ろうとする人も多いのです。知的機能も低下した場合、こうした言葉以外の情報のやり取りまでも難しくなるので、コミュニケーションにはさらに工夫が必要となります。専門家と相談して、どんな工夫が必要か見つけていく必要があるでしょう。
失語症の人は、たいてい「言葉がわかりにくいだけで、それが何かということ、今どういう状況なのかの判断はできるのだということ」を、ぜひ覚えておいてください。
Reジョブ大阪 西村紀子