キックオフ大阪レポート
言語聴覚士の西村紀子、医療会社を経営する石原玉美、鍼灸師の山崎美穂で、障害者の社会復帰支援をするNPOを設立することになり、私、松嶋有香も正社員として立ち上げに関わっています。毎朝ミーティングを行い、毎日それぞれの仕事をガシガシ進めています。この4人がコアメンバーなのですが、私だけが東京在住。
「あれ?どうして大阪のNPOに松嶋さん?」という声もちらほら。
NPO設立のキックオフパーティではその件を説明したのですが、ここにも書いてみます。

元々、西村さんは、私の文章講座の生徒さんでした。その中で西村さんは「私の思いをブログに書きたいんやけど、上手く書けへんねん」という悩みを持っていて、主にブログ記事を題材にして文章術を指導していました。言語聴覚士としての見解や、今の日本の医療の問題点、出会った患者さんの話を、私も西村さんの文章を通して知るようになり、そのたびに「マジで!?」と驚くような日本の医療の現実を知りました。また、患者さんのうち、下川さんという方とも、西村さんの文章の中で出会いました。

元バリバリの社長さんだった下川さん、突然の脳出血に倒れ、15時間にも及ぶ手術の後一命は取り留めたのですが、左半身麻痺と高次脳機能障害が残ってしまいました。そして、まだ社会に復帰できていません。治す薬がない病気の場合、国は「手を抜いてるんちゃうか?」と言っていいほどのいい加減な保障しかないし、社会復帰がゴールではなく「退院」がゴールなので、「はい、あなたのリハビリ、今日でおしまい。家に帰れるよ。ほな、さいなら」的な帰宅。今度は患者さんの家族の生活が天変地異のごとく変わります。脳の障害は、話せなくなる、言葉が分からなくなる、感情がコントロールできなくなるなど、今までのその人とは別人のようになってしまいます。家族に優しいケアはありません。下川さんも、就労支援機関では右脳の障害者の特徴であるコミュニケーションが取れないことにより退所したり、リハビリ期間が突然終了して行き場がなくなったり、精神障害ではないのに精神科病院併設のデイサービスに通って適応できなかったり……。
これ、笑い事じゃないんですよ。もしかしたら、明日は我が身、いえ、1時間後は我が身です。
あなたには想像できますか? バリバリに働いていた自分というものを失った人の気持ちを。大金を動かし、社会に貢献していたはずなのに、今は動かなくなった手で簡単な小物を製作し、それで「良かったね♪ 社会とつながって」と言われる経営者の気持ちを。私たちは、いつ、下川さんのような立場になってもおかしくないような状況で、しかも、自分の望まない社会的役割を押しつけられ、「これで良し! あなたの支援は終わりね!」 とされるかもしれないのです。
下川さんは、今までの手記を書いていました。西村さんが、その手記を出版したいという気持ちになり、しばらくの間、西村さんが原稿を書き、私が授業内で編集、校正するというまどろっこしい作業をしてたのですが、ある日私は叫びました。
「もういいわ!西村さん。私がやるわ!私は私にしかできないことをするから、あなたはあなたにしかできないことをして!」
その後、私はこの本の編集担当となり、西村さんはNPOを立ち上げることになったのです。
この本は、下川さんの作品として、そして、社会復帰のツールとして存在します。下川さんは、既に、この本を世に送り出す「営業」を始めています。そう、彼にしかできないことをしているのです。価格設定や販売ルートも決めています。まさに、彼の得意分野です。障害の関係で彼との面会は1時間が限度。興奮しすぎるとてんかんを起こしてしまうのです。でも、彼は今、社会復帰ができるととても興奮しています(笑)
「松嶋先生が僕の事をブログに書けば本は売れるんです」
そういう彼に、私は謙遜の意味で「いやいや」と笑いました。
すると彼は突然怒り出しました。
「先生、僕は本気ですよ。死ぬ気です!命かけているんですよ!笑わんといてください!発信してください!」
私はそれこそ頭を殴られたような気持ちになりました。そして心を入れ替え、こうして発信する側に回ることにしました。
もうすぐ出版に関するクラウドファンディングを始めます。リターンに「入力の権利」を入れるつもりです。普通と逆です。普通は入力してもらったら、こちらがお金を払う方。でも、リターンなんです。入力する人に払ってもらうんです。つまり、お金を払ってでも入力作業をすることで、この一大事に参加してほしいのです。そして本に入力者の名前を載せるつもりです。「私は下川さんに寄付した」ではなく「私は下川さんというひとりの障害者の社会復帰を手伝った」そう言えるリターンにしたいんです。
私は東京にいるので、実際の支援にはなかなか行けません。医療の免許もないですし、私の交通費なんて馬鹿らしいことで経費をつぶしたくないんです。その分、ヘルパーさんを雇って、車椅子の彼が本を売り歩く経費にしてほしい。
でも、私には文章力がある。私は私にしか書けないことを書いて、彼を支えていきたいのです。
NPO Reジョブ大阪 正会員 松嶋有香
写真:2017年12月18日 NPO Reジョブ大阪キックオフパーティ大阪会場編にて、活動を応援してくださる皆さんと。前列中央の黒い服が私、松嶋。その右が順に石原、西村、山崎。
追記:山崎は事情により理事を降り、代わりに松嶋が理事に参画しました。2018/01/22