ぼくの生き方は間違っていない
出版記念パーティ@大阪レポートです。
東からのルートで大きな台風が近づいた7月28日、『知っといてぇや これが高次脳機能障害者やで』の出版記念パーティを開催しました。

ぼくの生き方は間違っていない
私たち人間は迷います。良くても悪くても「このままでいいんだろうか?」と考えるものです。そういうときに「ぼくの生き方は間違っていない」という言葉が言える人がいて、その人が障害者だとしたら、あなたはその言葉から何を感じますか?
著者の下川さんは元社長さん。高次脳機能障害を持ち、仕事に戻れなくなりました。家族はもちろん会社も大変です。完全に元通りにはなりません。そして何より本人が一番大変です。高次脳機能障害は色々な症状がありますが、人とのコミュニケーションが取りにくくなることも特徴の一つです。社会に帰れなくなる人が多いのは、そのせいです。
そんなとき、諦めかけていた本が出版され、下川さんはその本を売りに回りました。障害のことをひとりでも多くの人に知っておいてほしいと思う気持ちからです。勇気がいるんです。8年前に倒れてから連絡してないし、会っていなかったんです。なかなか知っている人の家のチャイムを押せなかったんです。
勇気をもってそのチャイムを押したら、みんな、下川さんのことを覚えてくれていて、本を買ってくれたそうです。入院先の病院でも、通所のデイでも売り込みました。勇気をたくさんもらいました。そしてこの障害は、ぼくの個性だとだんだん思えるようになってきました。また、ぼくの生き方は間違ってないと思いました。
下川さんは力強くスピーチしました。そして、私たち理事にとって忘れられない言葉をおっしゃいました。理事の皆さん。息が詰まったら、3人で『想像の翼』を思い浮かべてください。これからも、3人で力を合わせて頑張りましょう。
専門職の人、下川さんの文章をずっと見てきた人には、そして『知っといてぇや』を読んだ人にはピン!と来たと思います。
この障害を持つ人の文章は、社会を避けている時や、引きこもっている時に、ある特徴があります。
障害のせいで、助詞が抜けるなど言葉の規則が欠落すること以外に「人のことを思いやる」言葉が出てこないのです。
下川さんは、私たち理事のことを心配し「力を合わせて頑張りましょう」という言葉を投げかけました。そして「想像の翼」という素敵な表現でイメージを膨らませてくれました。この言葉を聞いて私は深呼吸し、本当に背中に翼が生え、バサッと一振りしたような気持ちになりました。
『知っといてぇや これが高次脳機能障害者やで』の企画段階のタイトルは『中途半端に生かしやがって』です。こんな言葉で障害のことを表現していた1年前の下川さん。そこから本を出版することで気持ちが前向きになり、言葉も前向きに、そして思いやりも持てるように変化してきました。私もこの本を編集したのですが、下川さんの口から「想像の翼」というような素晴しい愛のある表現を聞いたのは初めてでした。これはもう彼の個性、アイデンティティです。
そんな彼が「ぼくの生き方は間違っていない」という言葉を言えること、とても素晴しいと思いませんか?
思いをつなぐ
この日は、下川さんが入院先で知り合った手品師さんが、手品を披露してくださいました。彼もまた、障害のせいで以前のように手品ができなくなってしまった人です。左手が使えないので、右手だけで手品をします。それでも、私たちはものすごく楽しいひとときを過ごせました。大阪の人だからでしょうか。トークも本当に面白おかしく、ボケと人情に溢れていました。

また、作業療法士さんが、座ったままでできる簡単な上肢の運動を教えてくださいました。「人間の体は動かすことで天然のオイルが出ます。」このことは本当にびっくりしました。痛いからと言って肩を固定し、四十肩を五十肩になるまでこじらせた私は、この言葉にあと10年早く出会っていたら!と思いました。



2年ぶりの外出
下川さんの原稿を本にするにあたり、そんな五十肩の私は入力を人に依頼しました。それもクラウドファンディングでです。お金を払ってでも入力をしたい、そんなちょっと普通では考えられないようなリターンに賛同してくれた人が5人もいました。しかもこのリターンが一番先に満席になったのです。
その中で、弟さんが高次脳機能障害だという人がいて、私たちは6人目のメンバーとして迎えました。
「リレーされる思い~もう一人の仲間~」
https://camp-fire.jp/updates/view/46840
2年半前に脳梗塞で高次脳機能障害になった弟さんが、今回のパーティに参加してくださいました。なんと、ほぼ2年ぶりの外出だったそうです。
私は嬉しいのと同じくらい「この社会はどうなっているのだ!」という気持ちになりました。それを変えていく為に私たちは立ち上がったわけです。
テレワーク、フリーアドレスなど、働き方改革のキラキラした言葉に触れる機会が多い私ですが、なんとか障害者の社会にもそういったネットワークを利用できないか、これから真剣に考えていこうと思いました。
そんな熱い思いを覚悟した私に、その弟さんは、ゆっくりと頭を下げます。「仕事、嬉しかったんだよね」お姉さんがほほえみかけます。にこっと笑った顔がハンサムです。システムエンジニアだった彼が、彼に相応しい仕事ができるよう、そして同じ思いをしている何万人もの人たちの社会復帰を手伝いたいと思いました。


今回の出版記念パーティには、約30人の出席者のうち、9人も障害者の方がいらっしゃってくださいました。そしてそのご家族の方、リハビリに携わっている方もいました。その比率は、当事者だけの家族会とも、医療関係者だけの勉強会とも違う比率で、私たちのイベントが将来こういう比率であってほしいというものに近いものでした。
多様性やダイバーシティが語られ久しくなりますが、マイノリティ、少数派は何かを掲げ旗を振り回すほど余計孤立することがあります。色々な立場の人が同じ空間にいる、今回の出版記念パーティのような空間が世の中に浸透したら素敵だと思っています。
今日新たに決意した気持ちも含め、もっともっとそれが伝わる活動をして参ります。これからのReジョブ大阪をどうぞよろしくお願いいたします。
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写真撮影:Taku