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命の教室

自分が今日生きているからといって、明日があるわけではない

実際に経験した人間の口から、この言葉を聞いた時、高校生たちはこの言葉の持つ真の意味をしっかりと受け止めました。

大阪府のある高校で『見えない障害・高次脳機能障害を知っていますか?』と題して講演会を開きました。

NPO法人Reジョブ大阪からは、言語聴覚士の西村紀子、当NPOが編集した『知っといてぇや これが高次脳機能障害者やで』の著者で、高次脳機能障害の当事者である下川眞一さん、そして、JR西日本福知山線脱線事故の被害者、鈴木順子さんのお母様である鈴木もも子さんが登壇し、それぞれの立場で、残酷な現実とそこから身をもって学んだ真理を、それぞれの言葉で高校生たちに伝えたのです。

あきらめないこと

高次脳機能障害当事者の下川眞一さんは、倒れる直前まで、絵に描いたような大阪の中小企業の社長で、みなさんが町中でよく見かけるお父さんたちと同じように、家族のために、会社のために、毎日普通にバリバリと働いていました。 2010年に脳出血を発症し、その後遺症で高次脳機能障害と診断されました。

下川さんは、発症してから長いあいだ、何度も挫折を繰り返しながらも社会復帰をあきらめなかったことを、話しました。

障害のためにうまく仕事ができず「やめてくれ」と言われ、うつ病になりましたが、それでもあきらめずに、自分の気持ちをずっとノートに書きとめてきたこと、そのノートを、周囲の人に見せるのですが、誰も相手にしてくれなかったこと、それでもあきらめずにいたので、4年後、私たちと出会い、出版までこぎつけたことを話しました。

折り重なる「あきらめない」が続いて、チャンスをつかんだということを、これまた「あきらめない」で手に入れた自分の体と言葉で、しっかりと話す。

高校生たちは、真の「あきらめないこと」を真正面から受け止めたようです。

「石にかじりついても、チャンスはつかまないといけない。チャンスがきたら、意地でも離さないでほしい」

各々の立場で、この言葉の持つ意味を理解した高校生たちは、それぞれの決意をしたようすがアンケートからうかがえます。

生徒の感想より(一部改変)

  • 「人生やめたい」とかふざけて軽く言ってしまうことがあるけど、口にして良い言葉ではないとわかった。
  • 「あきらめない」健常者である僕たちによっても失ってはいけない心だと思う。
  • 見えないゴールに向かって日々努力をしている下川さん。勉強で悩んでいることが小さなことのように思えました。

許すこと

鈴木もも子さんからは、事故被害者の親の立場からの話がありました。

あの福知山脱線事故の当日、事故の知らせをきいて、たくさんの病院を探し回ったけれども、娘の順子さんは見つかりませんでした。

ようやく救出されるも「もっても3ヶ月」と言われ、108人目の死亡者としてカウントされそうになりました。

人工呼吸器につながれ、意識不明で何の反応もない娘さん。娘さんが生きている唯一の証である「匂い」をかいでいたことを話されました。

事故をおこしたJRを憎み、恨み、狂うように「なぜ私の子どもがこんな目に遭わなくてはいけないのか!?」と思い続けて生きてきました。

そんな中、鈴木さんが出会ったのが、アウシュビッツを生き延びた、ビクトール・フランクル著『夜と霧』

「どうしたら折れない心になるか、人生が私に問いかけているのだ」と悟ります。

「陽気な心」が「いい遺伝子」のスイッチをオンにすると思い、口もきけない娘に向かい、毎日笑顔で話しかけたそうです。

その甲斐あって、順子さんは13年かけて、少しずつ回復してきています。

「JRを憎しみ続けた日々でしたが、『許し』がないと私自身が救われないんですね」

生徒の感想より(一部改変)

  • 順子さんを助けたお医者さんの一人が自殺してしまった話がショックでした。救いきれない命もあるけれど、それでも助け合いながら生きていくことが大切だと思いました。
  • 「許す」が印象的でした。理不尽なことも多いけれど、それを引きずっては自分がしんどいだけだと気づいた。
  • 娘さんが事故に遭われるというのは、ある意味本人よりつらいのかもしれない。今を受け入れ幸せに暮らすことについて考えさせられた。

自分が今日生きているからといって、明日があるわけではない

下川さんや鈴木さんの例からもわかるように、私たちは、いつ病気になるのか、いつ事故に遭うのかはわかりません。

お二人の場合は、命が助かりましたが、実は西村は、父親をある日突然事故で亡くしています。

朝、普通に過ごした父親が、夜には帰らなかったのです。

西村からは、毎日を大切にいきてほしい、自分を大切にしてほしいという話をしました。

いやなことがあっても、簡単に諦めないでいてほしい。そして、本当に自分のことを大切にしてくれる人を見つけてほしいと伝えました。

生徒の感想より(一部改変)

  • 誰か一人でもいいから、自分が死ぬと悲しんでくれる人がいると、頑張れるという話が印象的でした。
  • 命は脆い(もろい)。だから大切に。これはすごく重たい言葉でした。言葉の重量を感じて受け止めます。
  • 誰かの頑張れる理由になるような生き方をしていきたい!
  • あのときこうしておけば良かったという後悔を一つでも減らすような生き方をしていこうと思いました。
  • これからの毎日を全力で生きて、誰かの支えになれるような人間になりたい。
  • これから立ち向かう様々な困難を乗り越えていけるよう、大切な人を見つけていきたいと思いました。

命の教室

高校生たちは、1時間以上の公演中、私語などなく、とても真剣に話を聞いてくれました。

下川さんも登壇後このような感想を述べています。

「僕は、真面目に聞いてくれて、驚いています。高校生の時の僕だったら、全く話を聞かず、早く終わってほしいなと思っていたはずです。」

本当に真剣な話を、こちらも覚悟を決めて話せば、相手も真摯に受け止めてくれます。それは日常でもあることです。

この日、諦めないこと、許しの気持ちを持つことの大切さをしっかり伝えられて、私たちは自信を持てました。

これからもこのような活動を続けていこうと思います。

最後に、当事者の下川さんを、大勢の人の前に立たせることに対し、様々な葛藤があったことをお伝えしておきます。

それは、彼にてんかんのリスクがあるからです。てんかんは、緊張状態で現れやすくなり、時には、血のにじむような努力をした結果がすべて台無しになるような事態も招きます。

しかし、本人、家族、関係者と十分話し合い、発作はこの2年間起きていないこと、起こる前には、彼の場合、手の震えなどの前兆があるので、その時に退席したらよいということで講演を決断しました。

そして何より、下川さんのお母様が後押ししてくれました。

「本人がしたいようにさせてたらよろしいんちゃいますか。心配ばっかりしてても、何もできへんわ。」

一度は死にかけた息子さんを、8年間そばで支えた人の言葉です。

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