あなたの周りにもきっといる
闘病記フェスティバルというイベントがあります。今年度は「闘病を支える力」と題して、がん・高次脳機能障害・認知症・糖尿病・脳卒中・てんかん・パーキンソン病・うつ病・アルコール依存症などの病気と向き合っている人たちのための3日間。
例えばあなたは、この9種の障害や病気を持つ友人や知人はいますか?もしかしたらご自身がそうかもしれませんが。
医療が今ほど発達していない昔、このような人たちは、家に閉じ込められ、病院に隔離され、隠されてきました。そもそも病気になってしまうと、寿命が短かったため、有病者数も少なかったのです。ところがこの複雑な情報化社会、高齢化社会の日本では、もう隠しきれない問題となって浮かび上がり、これらの障害や病気に関する情報に、多くの人の関心が集まってきているのです。
「障害者、患者になったときに、本当に落ち込むのは、今まで無関心だった人たちです」
来場しなかった人にこそ伝えたい言葉です。
NPO法人Reジョブ大阪の理事で、言語聴覚士である西村紀子、当NPO編集の本『知っといてぇや これが高次脳機能障害やで』の著者で当事者でもある下川眞一さんが、10月30日、近鉄百貨店上本町店で開催された闘病記フェスティバルで講演をしました。
下川さんは、直前に産経新聞社で掲載され、また主催者の方が、前日大阪のテレビに出演されたこともあり、普段以上に多くの方が来場。私たちの講演会のパートも、35名枠に対し50名以上のご来場があり、大盛況でした。
中途半端に生かしやがって
まずは、下川さんの講演です。下川さんは、ある日突然、脳出血を起こしました。17日間、意識不明で、その間、寝たり起きたりで記憶がないのです。
その後、リハビリ病院へ転院。そのとき、「2 +2」も分からない、今日が何月何日かも分からない、新聞も読めないという、自分の状態に気づいたのです。
主治医の言葉はこうでした。
「下川さんは、高次脳機能障害です」「この病気に治療方法はありません。医学的に完全に治りません」
けれど、下川さんは家族のために「治してみせる!」と決意しました。
しかし、このような状態では仕事はもちろんできません。体にも麻痺が残り、一人で出来ないことも多くあります。
手記を書き始めたのですが、誰も読んでくれません。うつ病にもなりました。そして4年の月日が流れました。
「中途半端に生かしやがって」は、当時の下川さんのせりふです。
そんな中、下川さんは大きなてんかんを起こし、運ばれた病院で、西村と出会います。
ダメ元で提出した原稿を見て、西村は本を出しましょうと告げます。
そこから、下川さんの人生は変わりました。
諦めない心、信じる心、負けない心、折れない心。
この四つを信条にしてきた下川さんが「もう一度社会へ戻りたい」と決意したのです。
笑いの連続、質疑応答
質問「◯年前にこういう事故にあいましてね、主語がぬけるって娘に怒られるんです。そんなことありますか?」
下川「あ、僕もそうです。5W2Hですよ。紙に書いてスマホの横に貼ってます。ラインで練習してるんですよ、でも、ぬけますね」
質問「高齢者のデイサービスは利用していますか?」
下川「僕は行かないです、話あわないでしょ?そこにいる人たち、僕の親と年齢が一緒ですから」
質問「下川さんは、たくさんの人と話ができないのですか?」
下川「あ、わかりませんね。もう、さっきからもう話がわかってません。必死です、ついていくのに(笑)」
文章にしてみるとちょっとトーンが落ちますが、下川さんはとてもユニークな人です。障害を武器にするようなネタをご自身でおっしゃることもあるので、支援をしている私たちが対応に困惑しながらも笑ってしまうことが多いのです。不謹慎かなと躊躇するこちらの気持ちを吹き飛ばすほど、下川さんは大きくて強い心からくる言葉で私たちをホッとさせます。
「嘘泣きしてでも本を売りきります!」と宣言していた下川さんですが、そんなことをしなくても、みなさんにたくさん本を買っていただきました。ありがとうございました。

障害者はいない!?
次に、言語聴覚士の西村の講演です。
日本では、障害者は「いない人」として隠されていると考えることについて語ります。
様々な理由で外に出る機会が少なくなる障害者が接するのは、当事者仲間、家族、医療や福祉関係者のみというのが実情です。
ですから、私たちは普段、なかなかそういう人たちを目にする機会がありません。
欧米では車椅子で外出する人をよく見かけます。でも、日本はどうでしょう? 東京でも、多い日で4.5人くらいにしか出会いません。
病気、障害者となった時に落ち込むのは、これまで無関心だった人なのですが、無関心というより、目にする機会の少なさに危機感を覚えます。
高齢化が進み、また、医療技術も進歩、病気や障害は完治するものでなく、付き合うものへと変わってきました。
交通事故などでも、救命技術の向上で、命は助かる時代になりました。でも、その先はどうでしょう?
障害が残った場合、障害のある自分を受け入れ、新しい人生をどう構築していくかが課題となります。
そして、家族、周囲、地域は、その人たちが完治しなくても、たとえ障害が残っても、その人らしさは変わらないと考え、どのように支援していくのかを考える段階にきています。
地域には病気や障害を抱えながら生活しているひとがたくさんいます。
まずは「関心を持つこと」が大切です。
自分はそういう世界のことを「知らないのだ」と自覚して積極的に情報を集めることが大切です。
そうです。「ならないかもしれない障害について心配しない」などと、判断を先延ばしにしてはいけない時代へ、日本は突入したのです。
終了後に分かる関心の高さ!
当事者のみならず、周りで支えておられる御家族やお友達。医療関係の方や、勉強中の方も参加していて、質問が多岐に渡りました。下川さんの資料や新聞記事のコピー、用意したチラシもどんどんなくなり、みなさんが情報を渇望されている様子がうかがえました。
終了後には、当事者と家族さんから個別の相談が相次ぎました。中には「こういう症状があるんですが、『高次脳機能障害』の診断はもらっていません」という、いわゆる「診断漏れ」の人もいました。これは、珍しいことではありません。すべての医者が「高次脳機能障害」の可能性を話してくれるわけではないのです。また、見た目が普通なので、診断がつきにくい障害でもあるのです。その方たちには、病院で診断をつけてもらうためのアドバイスをしました。
見えない障害と言われる「高次脳機能障害」詳細については、是非、下川さんの書籍『知っといてぇや これが高次脳機能障害やで』を読んでください!
そうです。何より「関心を持つこと」が大切なのです。