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面で支える看護師、点で支える言語聴覚士

高次脳機能障害に限らず、患者側から見れば、看護師も言語聴覚士も、職種は違えど「病院で働く人たち」

両者にある患者の見方の違いは、一歩間違うと「見落とし」に連動しますが、きちんと連携プレーができれば、患者にとって「つなぎ目のない」理想的な環境となるでしょう。

『中材業務及び感染対策研究会』で、高次脳機能障害について、NPO法人Reジョブ大阪の理事、言語聴覚士の西村紀子が講演してきました。こちらの研究会は、看護師さんがたくさん集まります。今回は、具体的事例を多く入れました。

高次脳機能障害は、診断がついていない人が多いという特徴があります。それは、高次脳機能障害ならではの症状に起因します。

  • 麻痺とちがって見た目でわからない
  • ADL(食事やトイレ、入浴や整容、さらに移動などといったような、私たちが日常生活の中でごく当たり前に行っている習慣的行動のこと)は自立している人が多い
  • 本人が自分の障害に気がつきにくい

そして、病院内では問題なく過ごせていたのに、退院して初めて生活上の困難さがわかることが多いのも特徴です。

  • いままで通りに仕事ができない
  • コミュニケーションがうまくとれない
  • 周囲の人には「人の話を聞いていない」「やる気がない」ようにみえる

その結果、社会生活に問題が生じ、引きこもり・うつ病など2次障害が生じます。最も大事なのは、診断をつけてもらうことですが、このように気がつきにくい障害ですから、医療現場にいる人が「障害を見落とさないこと」が大切になってきます。

24時間、全患者に関わる看護師は、療養上の世話や生活全般に関わる「なんか変?」という気づきを大切にしてほしいと思います。そのためには「高次脳機能障害があるかも?」という、積極的かつ意図的な観察が必要です。

  • 通りがかりの車椅子に乗った人に向って文句を言う
  • ある事項が気になってしかたがないようだ
  • 生活リズムがつかめず、寝たり起きたりしている
  • ベッドや身の回りの環境が乱雑で、かつ、それを気にしていない

小さなことでも良いので「気になったことを記録しておく」ことが大切です。看護師が患者に接する病室は、自宅生活により近いので、日常生活能力が推測しやすいといえるでしょう。

それに対して、言語聴覚士が患者に接するリハ室は、決められた時間ないだけ訓練するための特殊な空間。日常生活能力は推察しにくいものです。そもそも病院は、受動的でルーティン作業が中心ですから、問題なく退院できたあとの帰宅後の本当の困難については、なかなかわかりにくい。リハ職と看護職が、お互いが見えないところを補い合うようなつもりで、積極的に協力する体制が必要です。

まずは、看護師にもこの「高次脳機能障害」という障害を知っていてほしいと思います。大事なのは診断を漏れを防ぐこと、高次脳機能障害があるかもしれないという情報提供すること。家族さんにとって心のより所になる、「ひとりでかかえなくてもいいよ」という声かけをしてほしいことなどを、伝えました。

会長さんや座長の方からは、「勉強になりました。知らないことがありました」という言葉をいただきました。そして参加者の方からは「診断はどこでつけてもらえますか?」という現実的な問い合わせもありました。

最近、講演会を開くたびに、このような患者さんに出会います。「また診断がもれている人がいた」その現実にがっかりします。ここでも、情報発信の重要性をかんじました。